千の夜をあなたと【完】
<side.イーヴ>
曇天の下、黒い影が城のほうへと近づいてくる。
大空を悠々と舞うその翼。
イーヴは腕を伸ばし、自室の窓を開けた。
「……ご苦労だったな、エインセル」
「ピュイピュイ~」
イーヴが干し肉を与えると、エインセルはご機嫌な様子で喉を鳴らした。
イーヴはエインセルの脚に巻かれていた羊皮紙を取り外した。
羊皮紙はエティスからのものだ。
「毒煙のレシピ、か。……こんなものを教会に知られたら、速攻で火炙りだな」
「……ピュイ?」
エインセルは不思議そうに首を傾げる。
イーヴはくすりと笑い、エインセルを止まり木に止まらせた。
――――去年の秋。
イーヴは『緋の魔剣士』ことエティスに剣と毒物の手ほどきを受けた。
冬が間近に迫っていたため、森にいた一か月の間はひたすら剣技の指導を受けていた。