千の夜をあなたと【完】
『若様なら、毒薬の方はレシピがあれば独学でいけるだろ。そっちは後でいい、まずは剣の方だ』
エティスは言い、一緒に居た時間のほとんどを剣技の指導に費やした。
――――そして雪が降り出す少し前。
イーヴはグロスターに戻ることとなった。
毒薬の方はエインセルを使って後日教えてもらうという約束で。
いわゆる通信教育のようなものだ。
別れ際、エティスはイーヴにこう言った。
『剣も毒薬も、使い道次第で善にも悪にもなる。……ただね。あたしゃひとつ心配なんだよ』
『何がだ?』
『若様はまだ、実際に人を殺したことがないだろ?』
エティスの言葉にイーヴは息を飲んだ。
エティスはその緋色の髪を揺らし、口を開く。
『氷眼の狂剣士と若様が違うのは、そこだ。恐らく相手は容赦なく襲って来るだろう』
『……』
『その境地まで行っちまってる奴は、自らの死も恐れない。殺すことも殺されることも恐れない奴と、どちらも恐れてる奴では、勝負は目に見えている』