千の夜をあなたと【完】
エティスは淡々という。
イーヴはエティスの言葉を息を飲んで聞いていた。
確かにあの男は人を殺すことに全く躊躇いはないだろう。
その境地まで行かねばあの男には勝てない、ということか……。
無言のイーヴに、エティスはため息交じりに言った。
『でもね、若様。若様は善良な人間だ。たとえ毒薬に手を染めてもね』
『……』
『それに、殺人は酒のようなものだ。初めの一杯は飲み辛いが、これが喉を通れば後は何杯でもいけちまう。そして度を越すと、病み付きになるのさ』
『……』
『あたしゃ若様に剣を教えたけど、殺戮に喜びを覚えるような人間にはなってほしくない。矛盾してるけど、あたしが言いたいのはそういうことだよ』
『……』
『若様は善良な人間なんだ、それを忘れるんじゃないよ?』
エティスはどこか心配そうな顔で言う。
イーヴは礼を言い、グロスターへと向かいながら、何度もエティスの言葉を噛みしめていた。
――――命のやり取りをする覚悟。
その覚悟がなければ、あの男には勝てない。
しかし……。