千の夜をあなたと【完】
イーヴは羊皮紙を眺め、ひとつ息をついた。
その時。
コンコンと控えめに扉が叩かれ、ゼナスが姿を現した。
「失礼いたします、イーヴリオン様」
「なんだ?」
「ティンズベリーのエスター様より、書簡が届きました。こちらでございます」
ゼナスは手にしていた書簡をイーヴに差し出した。
イーヴはそれを受け取り、ざっと目を通す。
その青灰の目は一瞬見開かれた後、皮肉げに細められた。
その内容は……。
「……セレスティーナとの婚儀を、ブラックストンの名において認めて欲しい、か」
「……え?」
ゼナスは驚いたようにイーヴを見る。
イーヴはくすくす笑い、書簡を机の上に放り投げた。
「ついに本性を出したか、あの男」
「イーヴ様……」
「ティンズベリーが欲しいのか伯爵位が欲しいのか、はたまたあの女が欲しいのかよくわからんが。……まぁ何の見返りもなく、一年も面倒見たりはしないだろうな」