千の夜をあなたと【完】
3月。
レティはライナスとともに、マン島にある『諸島の王』オーラフの居城に向かっていた。
居城と言っても木とレンガで作られた、さほど大きくはない城だが。
二人が城に入ると、オーラフの従者が二人を謁見室へと案内した。
……やがて、数分後。
ザッザッという足音とともに大柄な男が姿を現した。
体格はライナスより一回り大きく、肌は日に焼けて浅黒い。
体のあちこちに刀傷があり、見るからに『海の戦士』といった風貌だ。
年は30代だろうか、短く切られた黒髪や精悍な頬は若々しいが、どことなく落ち着きも感じさせる。
「珍しいな、ライナス。お前から俺を訪ねてくるとは。……ん?」
オーラフは隣にいたレティの姿を見るなり、目を丸くした。
レティは口元に笑みを浮かべ、チュニックの裾を少し抓んで会釈した。
「お初にお目にかかります。私、レティーシャ・アリー・ティンバートと申します」
こういう挨拶をするのは一年ぶりだ。
オーラフはしばしポカンとしていたが、やがて頬を緩めて破顔した。
「ほう、これが噂のライナスの妻か。さすがに令嬢だな」
「……噂にもなってなければ、まだ妻でもない。そうなる予定ではあるがな」