千の夜をあなたと【完】
そんなセレナをエスターは優しい瞳で見つめている。
その瞳に勇気づけられ、セレナは思い切って言ってみた。
「あの。……どうしたら、ケヴィン様の花嫁になれるのでしょうか?」
――――その言葉に。
エスターの瞳は一瞬、昏く陰った。
感情のない、冷たい瞳。
しかしエスターは一瞬でそれを押し殺し、目を細めた。
「なかなか難しい質問ですね、それは」
「……エスター様……」
「セレナは音楽、舞踏、詩学ともに申し分ない域に達しています。……足りないとしたら、女性らしさ……ですかね?」
エスターはくすりと笑った。
……女性らしさ……。
驚き目を丸くしたセレナに、エスターは優しい微笑みを浮かべて言った。
「女性としての色気、とでも言いましょうか。もちろんあなたは充分に美しい。けれど男性を魅了するためには、生まれ持った美貌だけでは足りないのです」
「それは、どうしたら身に付くのでしょうか?」
「それは書物では学ぶことはできません。経験から学ぶしかないのです」