千の夜をあなたと【完】
<side.エスター>
セレナの部屋を出た後。
エスターは大きなため息をつき、廊下を歩き出した。
セレナが純粋だとわかってはいたが……。
「……」
ひょっとしてセレナは、男女間のことは全く知らないのではないだろうか。
赤子はグーズベリーの木の下から来ると……
今でもそう思っているのではないだろうか?
けれど、そうであるなら……。
エスターはくすりと笑い、窓の外を見た。
夜闇の中、白木蓮の花が月明りの下で淡く輝いている。
……セレナを思わせる、純白の花びら。
その純粋さを守りたいと思う反面、その真っ白な心を自分の色で染めてみたいとも思う。
エスターは自室に戻り、長椅子に腰かけた。
と、部屋の奥からエリオットが羊皮紙を片手に姿を現した。
どうやら何か情報を掴んだらしい。