千の夜をあなたと【完】


リアンは脂汗を浮かべながらぐっと目を瞑った。

……脳裏に男の顔がよぎる。

血に塗れた剣を手にした、亜麻色の髪の男。

そして……

亜麻色の髪の男が去った後に現れた、長い黒髪の男……。


「エ……スター……」


なぜ、その名前が出てきたのかはわからない。

だが、その名を呟いた瞬間。

リアンの脳裏に、様々な記憶が波のように押し寄せた。


「……ぐっ……あ……あぁ……」


耐えられない頭の痛み。

リアンはふらつきながら厨房を出た。

そして、数歩歩いた時。



――――リアンは全てを思い出した。




……夕刻。

買い物から戻ってきた宿屋の主人は、厨房のテーブルの上にメモが置いてあることに気付き、眉根を寄せた。

それは殴り書きではあったが、字体や文法はそれなりに洗練された、しっかりしたものだった。


『お世話になりました。

申し訳ないのですが、路銀を少々お借りします。

後日、3倍にして返しますのでお許しください。 

リュシアン』


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