千の夜をあなたと【完】
オーラフの居城を出た後。
二人は『右足の道』と呼ばれる、市場から家へと続く道を歩いていた。
マン島の名は、ケルトの海神マナナン・マクリルからつけられており、島のあちこちにその故事の名残がある。
マナナンはマン島に住んだ最初の人で、三本の脚を持ち、濃霧の中を移動したらしい。
……本当かどうかはわからないが。
覚束ない足取りで歩くレティに、横を歩いていたライナスが声をかける。
「……おい、どこへ行く? 市場に寄ると言っていただろう」
「……」
「……レティ、聞いているか?」
レティは俯き、無言で歩いていた。
――――オーラフの言葉が頭から離れない。
イーヴに子供ができた、なんて……
確かに、あれから一年以上が過ぎている。
いつ子ができてもおかしくはない。
頭のどこかではわかっていた。
それなのに……。