千の夜をあなたと【完】
侯爵家の跡取りとして、結婚し子供を儲けたイーヴ。
きっとこのまま、あの輝かしい世界で生きていくのだろう。
それに比べて、自分は……。
もう、ここで生活を始めて一年半が過ぎた。
例えティンズベリーに戻っても、自分がどんな目で見られるか……。
ライナスは紳士的にレティに接してくれた。
しかし自分がいくらそう主張しても周りはそうは見ないだろう。
侯爵家はおろか、そもそも結婚することすら難しいかもしれない。
侯爵家を継ぐイーヴと、地に堕ちた伯爵令嬢。
自分とイーヴの道は決定的に分かれてしまったのだ。
その事実はレティの胸に正面から深く突き刺さった。
「……レティ」
「……」
「レティ!」
茫洋と歩くレティの耳に、ライナスの声が聞こえる。
しかしレティはふらふらと歩き続けた。
隣でライナスが足を止めたことにも気付かなかった。
……そして、次の瞬間。