千の夜をあなたと【完】
「……レティっ!!」
叫ぶようなライナスの言葉とともに、レティは突然ぐいと腕を引かれ、つんのめった。
ライナスはレティの背を抱き寄せ、脇の路地へと引きずり込む。
はっと顔を上げたレティの目にライナスの真剣な顔が映った。
……万年雪を思わせる美しく蒼い瞳。
その瞳に宿る、熱情と……かすかな、怒り。
「……そんなに、ショックだったか? あの男に子ができたことが」
「……ライナス……」
「お前の心には……まだ、あの男が……」
掠れた声でライナスは言う。
……瞬間。
ライナスがぐいとレティの肩を掴み、抱き寄せた。
息も止まらんばかりに抱きしめられる。
……全身を包む、潮風と太陽の香り。
いつにないライナスの激情に、レティはその胸の中で息を飲んだ。