千の夜をあなたと【完】
あれからイーヴは何度かディーンの森に行き、エティスに剣の指導をつけてもらった。
剣の技術は一年前とは比べ物にならないほど上がり、毒薬の知識もほぼ完璧だ。
もちろん、そのどちらも大っぴらにはできないものなので、城では隠しているが。
……と、回廊の奥の方から足音がし、イーヴは顔を上げた。
見ると、父のダグラスがこちらの方へと歩み寄ってくる。
ダグラスはイーヴの姿を見ると頬を緩めて笑った。
普段厳格な父がこんなふうに笑うのは珍しい。
と思ったイーヴだったが、父の言葉に凍りついた。
「イーヴ。お前もついに父親か」
「…………は?」
イーヴは目を見開いた。
何を言われたのか理解できない。
唖然とするイーヴに、ダグラスは上機嫌で話しかける。
「ディナリアの侍女から聞いたぞ。そろそろ4か月になるらしいな」
「……」
「お前たちが夫婦としてやっていけるのか心配だったが、この分なら問題ないな。よかった、よかった」
ダグラスはぽんとイーヴの肩を叩き、ホールの方へと歩いていく。
イーヴは呆然とその背を見つめた後、くるりと踵を返した。