千の夜をあなたと【完】
「……半年ほど前の舞踏会にいらっしゃった、吟遊詩人の方です……」
「……」
イーヴは片手で目元を押さえた。
――――最悪だ。
天井を仰いだイーヴに、ディナリアは言う。
「わ、わたくし……寂しくて。そんなときに、あの方が優しくしてくださって……つい……」
「……」
「本当に……本当に、申し訳ないことをしたと思っています。だからどうか、許して……」
「許す?」
イーヴは冷やかに嗤った。
いつもは物憂げな瞳が今は苛烈さを帯びてディナリアを見つめている。
その視線の冷たさに、ディナリアの顔がさらに青ざめていく。
「……お前、侯爵家を何だと思ってる?」
「……っ」
「お前は侯爵家の妻として、最もしてはならないことをした。それを自覚した上で、許せなどと言ってるのか?」