千の夜をあなたと【完】
「リュシアン様! ……ま、まさかっ……」
「オレにしてみても『まさか』って感じなんだがな」
「し、しかし、これまでどこにいらっしゃったのですか!? トマス様がいくら探しても、全く見つからなかったのに……」
男――ケネスは慌てふためいた様子で言う。
トマスはウェルシュ伯で、ウェルシュ伯の妻は父・リカードの妹にあたる。
そしてその娘、アマンダはリュシアンの許嫁である。
ちなみにケネスはウェルシュ伯の遠縁で、ここリンクスで貿易業を営んでいる。
「そ、それにしても……良かった! さっそくトマス様にご連絡を……」
「いや、それはちょっと待ってくれ。事情があってな。……その前に、ティンバートがどうなったか教えて欲しい」
リュシアンの言葉に。
ケネスはしばし視線を宙に彷徨わせた後、とても言いにくそうに口を開いた……。