千の夜をあなたと【完】
3.氷眼の狂剣士
3月上旬のある晴れた日の午後。
レティは妹のセレナとともに2階の広間で椅子に座っていた。
セレナはレティより1歳年下で、本名をセレスティーナ・サラ・ティンバートという。
光を溶かしたかのような淡くけぶった美しい金髪に、森の湖を思わせる繊細な二重の翠の瞳、白磁のような白い肌。
その容貌は美女と謳われた母と瓜二つで、年頃になった今では名家からの縁談が後を絶たない。
性格はゆったり、おっとりしており、純粋でとても可愛らしい。
もちろんレティもこの美しい妹を愛している。
が、イーヴなどに言わせると、
『あいつ、霞でも食って生きてんじゃないの? まともに歩けるの?』
屈折した伯爵様らしい物言いだが、レティもなんとなく言いたいことはわかる。
浮き世離れしている……とでも言うのだろうか。
思わずしげしげと妹を見つめるレティに、セレナはその頬を緩めてふわっと笑った。
「どうかなさいましたの、お姉様?」
「……あ、ううん、なんでもないよ」
レティは慌てて視線を逸らした。
母と瓜二つ、という妹の容貌。