千の夜をあなたと【完】
イーヴはゼナスに指示を出した後、もう一度書簡を見た。
確か『諸島の王』はウェールズとの交易を望んでいるはずだ。
恐らく今回もそのためにコルウィンに来たのだろう。
となれば、コルウィンを治めているクロフト男爵に接触しようとするはずだ。
と、すると……。
事前に仕込めるのであれば、仕込んでおいた方が良さそうだ。
その方が確実だろう。
イーヴは再び口を開いた。
「ゼナス。あと、もう一つ」
「……は、何でございましょうか?」
「クロフト男爵に、会食の席を設けて『諸島の王』とその部下を呼べと伝えておけ。……ブラックストンの名は出さずに、あくまでクロフト男爵の名で、だ」
「は、畏まりました」
ゼナスは一礼し、イーヴの前を辞した。
イーヴはゼナスが部屋を出たのを見届けた後、自室の隣にある書斎兼作業部屋に入った。
部屋の中は様々な薬草や調合のための機材が並べられている。
その脇には調合した塗り薬や丸薬を保管する棚があり、その一番下の棚には鍵がかかっている。