千の夜をあなたと【完】
昔のアルトの声より幾分低くなった、響きのよいテノールの声。
射竦められたかのように足が動かない。
全身が震える。
……どうすればいいのかわからない。
振り返るのが、怖い……。
――――しかし。
そんなレティの背後に、容赦なく足音が近付いてくる。
……そして。
レティは後ろからぐいと腕を掴まれ、引き寄せられた。
その手は記憶にあるものより大きく、力強い。
「……っ!」
レティは呆然とその手の主を見上げた。
懐かしい面影。
金の髪、青灰色の瞳……。
目を見開くレティの目前で、イーヴも呆然とレティを見つめている。