千の夜をあなたと【完】




昔のアルトの声より幾分低くなった、響きのよいテノールの声。


射竦められたかのように足が動かない。

全身が震える。

……どうすればいいのかわからない。

振り返るのが、怖い……。


――――しかし。


そんなレティの背後に、容赦なく足音が近付いてくる。

……そして。

レティは後ろからぐいと腕を掴まれ、引き寄せられた。

その手は記憶にあるものより大きく、力強い。


「……っ!」


レティは呆然とその手の主を見上げた。

懐かしい面影。


金の髪、青灰色の瞳……。


目を見開くレティの目前で、イーヴも呆然とレティを見つめている。


< 298 / 514 >

この作品をシェア

pagetop