千の夜をあなたと【完】
「……レティ、なのか?」
「……」
「……お前……本当に……?」
イーヴは目を見開いたまま、掠れた声で言う。
信じられない、というように。
その手は震え、いつもの物憂げな雰囲気は消え去っている。
レティはしばらく無言でイーヴを見つめていたが、やがてはっと我に返った。
そっとイーヴの手を腕から外し、さっと数歩後ずさる。
イーヴはレティの反応にさらに目を見開いた。
レティは胸が裂かれそうな痛みを感じながら、胸の前でぐっと手を拳に握りしめた。
もう、昔とは違う……。
イーヴは侯爵家を継ぐ者だ。
自分とは身分も立場も違う。
そして結婚し、子供もいる。
もう、自分が気安く口を聞いていい相手ではない。