千の夜をあなたと【完】


レティは慌てて言い、窓から離れた。

メイベルのもとへと歩み寄り、示された椅子に座る。

メイベルはレティの後ろに回り、レティの長い栗色の髪をそっと手に取った。

エプロンのポケットからブラシを出し、レティの髪を優しく梳かしていく。

その手付きはいつも優しく、丁寧だ。


レティと妹・セレナはリカード伯爵と正妻ロレーナの間に生まれた、いわゆる正嫡出子だ。

しかしリカードはロレーナと結婚する前に当時メイドであったメイベルとの間に子を作っていた。

ロレーナが男子を産めばリカードの後継となったはずなのだが、ロレーナは妹・セレナの出産時に産褥で亡くなり、男子を残すことはできなかった。

そのためメイベルが生んだリュシアンが父の後継者となっている。

メイベルはリュシアンを生んだ後もハウスメイドとして屋敷で働き、今ではメイドではあるが、3人の母のような立ち位置になっている。


「夏になればイーヴ様に御輿入れなさるというのに。このままではロレーナ様に申し訳が立ちません」

「……」

「ロレーナ様は私を信じてレティ様とセレナ様を託してくださったのに。なぜレティ様だけ、こんな快活すぎる性格になってしまわれたのか……」


メイベルは髪をとかしながらため息交じりに言う。

レティも内心でため息をつきながら、メイベルの言葉を聞いていた。

レティの妹、セレナはレティとは全く正反対でおっとりした、儚い雰囲気の美少女だ。

その気質も容姿も雰囲気も、レティとは全く違う。

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