千の夜をあなたと【完】
エスターは持ってきた本の一冊を手に取り、ぱらぱらっとめくる。
「今日は詩学ですね。前回、キネウルフの『ユリアナ』を読みましたが、その続きを読みましょうか?」
『ユリアナ』は4世紀初めに宗教詩人キネウルフが作った宗教詩で、ユリアナという女性の殉教を描いた作品だ。
レティは内心ではぁと息をついた。
……あまり興味がない。
そんなレティの表情を見たエスターは、おや?というように首を傾げた。
「どうかしましたか?」
「いえ、なにも……」
「別の題材の方がいいですかね? ……では『ベオウルフ』にでもしましょうか?」
エスターの言葉にレティは目を輝かせた。
『ベオウルフ』は英文学の古い伝承のひとつで、英雄ベオウルフの冒険譚である。
あまり女性向けの題材ではないが、少なくとも『ユリアナ』よりは興味が持てそうだ。
エスターはちらりとセレナに視線を投げた。