千の夜をあなたと【完】
レティの心の中で様々な感情がせめぎ合う。
――――懐かしさと、失ったはずの恋情。
縋りつきたい思いを必死で堪え、レティは口を開いた。
「……お久しぶりです、ブラックストン伯爵……」
レティのその言葉に、イーヴの顔が凍りついた。
しかしレティはそれに構わず、続けた。
「……ご結婚、なさったと聞きました。おめでとうございます」
「……っ、レティ……」
イーヴは掠れた声で呻くように言う。
レティはイーヴを見上げながら、何かが違うことに気が付いた。
薬草の香りが、しない……。
いつもイーヴの躰からは薬草やハーブの香りがした。
けれど今は薬草の香りではなく、甘く危険な香りがする。
そう、まるで……蜜に溶かした甘い毒のような……。