千の夜をあなたと【完】
「レティ……」
イーヴは呻くように呟いた。
ぐっと目を瞑り、憤りをぶつけるように拳でドンと壁を叩く。
レティが自分を見た、あの目……。
まるで知らない人間を見るかのような、あの瞳……。
そして、レティの口から出た言葉……。
『お久しぶりです、ブラックストン伯爵』
他人行儀な言葉。
視線もイーヴと合わそうとはしない。
――――明確な、拒否。
喜びは一瞬で消えうせ、イーヴの心は氷の中に突き落とされた。
そしてレティの次の言葉が、イーヴの心を正面から引き裂いた。
『……いえ。ライナスと一緒に住んでいます……』
それを聞いた瞬間、イーヴは全身の血が逆流するような気がした。
喜びは一転、イーヴの心は奈落の底に突き落とされた。