千の夜をあなたと【完】




――――悪夢だ。



悪夢としか、思えない。


そして現れたライナスの言葉に、イーヴの心はさらに引き裂かれた。


『昔はどうあれ、今、レティはおれの女だ』


言い、レティの肩を抱き寄せたあの男。

亜麻色の髪と蒼い瞳を持つ、美しく精悍な男。

そして、あの男にされるがままになっているレティの姿……。


「……っ!」


イーヴは唇を噛みしめ、宙を睨み据えた。

いつも冷静なその青い瞳に怒りが炎のように揺らめいている。


――――人を失う、ということ……。


その本当の意味を、イーヴは今、心の底から噛みしめていた。


人を失うのは、死別や離別の時だけではない。

相手が、全く自分の知らない人間になってしまった時――――


完全に、その人を失うのだ。


< 310 / 514 >

この作品をシェア

pagetop