千の夜をあなたと【完】
――――悪夢だ。
悪夢としか、思えない。
そして現れたライナスの言葉に、イーヴの心はさらに引き裂かれた。
『昔はどうあれ、今、レティはおれの女だ』
言い、レティの肩を抱き寄せたあの男。
亜麻色の髪と蒼い瞳を持つ、美しく精悍な男。
そして、あの男にされるがままになっているレティの姿……。
「……っ!」
イーヴは唇を噛みしめ、宙を睨み据えた。
いつも冷静なその青い瞳に怒りが炎のように揺らめいている。
――――人を失う、ということ……。
その本当の意味を、イーヴは今、心の底から噛みしめていた。
人を失うのは、死別や離別の時だけではない。
相手が、全く自分の知らない人間になってしまった時――――
完全に、その人を失うのだ。