千の夜をあなたと【完】
―――― 一時間後。
詩学の勉強が終わり、レティはほっと息をついていた。
その隣で、セレナはエスターが手元で開いている『ベオウルフ』の本を横から覗き込んでいる。
「エスター様、頭韻法というのは、この場合は……」
セレナはエスターのことを昔から『様』付でよぶ。
二人の父・リカードは伯爵なので、男爵のエスターよりも地位が高い。
呼び捨てでいいですよと昔エスターに言われたため、レティはエスターを呼び捨てにしているのだが……
セレナはエスターのことをとても尊敬しているらしく、『様』付で呼んでいる。
詩文や音楽が好きなセレナにとって、エスターは最も尊敬する教師のようだ。
「この場合は、子音韻になっていますね。なので……」
「……なるほど。よくわかりましたわ、エスター様」
セレナは楽しげに本を覗き込んでいる。
いつも詩学の講義の後はこんな感じだ。
セレナはあまり喜怒哀楽を表現する方ではないが、詩学に関してだけはとても興味を示す。
レティは二人を横目で見ながら、エスターが持ってきた本の一冊を手に取った。
ぱらぱらとめくって見たところ……、どうやら英語ではなくラテン語のようだ。