千の夜をあなたと【完】



―――― 一時間後。

詩学の勉強が終わり、レティはほっと息をついていた。

その隣で、セレナはエスターが手元で開いている『ベオウルフ』の本を横から覗き込んでいる。


「エスター様、頭韻法というのは、この場合は……」


セレナはエスターのことを昔から『様』付でよぶ。

二人の父・リカードは伯爵なので、男爵のエスターよりも地位が高い。

呼び捨てでいいですよと昔エスターに言われたため、レティはエスターを呼び捨てにしているのだが……

セレナはエスターのことをとても尊敬しているらしく、『様』付で呼んでいる。

詩文や音楽が好きなセレナにとって、エスターは最も尊敬する教師のようだ。


「この場合は、子音韻になっていますね。なので……」

「……なるほど。よくわかりましたわ、エスター様」


セレナは楽しげに本を覗き込んでいる。

いつも詩学の講義の後はこんな感じだ。

セレナはあまり喜怒哀楽を表現する方ではないが、詩学に関してだけはとても興味を示す。

レティは二人を横目で見ながら、エスターが持ってきた本の一冊を手に取った。

ぱらぱらとめくって見たところ……、どうやら英語ではなくラテン語のようだ。


< 32 / 514 >

この作品をシェア

pagetop