千の夜をあなたと【完】
「それはウェルギリウスの詩集です。イーヴ様からお借りしたもので……」
と、エスターが言った時。
ちょうどイーヴが廊下を通りかかった。
イーヴは広間の中に三人の姿を認めると、すたすたと広間の中へと入ってきた。
陽の光のような金髪と雪のような肌、物憂げな青灰の瞳はいつ見ても美しい。
しかしなぜ性格だけがここまで屈折しているのか。
……などと思っていたレティの前で、エスターが口を開いた。
「ちょうど良いところにいらっしゃいました、イーヴ様。お借りしていた本をお返しいたします」
「……なんだっけ? ウェルギリウス?」
「ええ。農耕詩もアエネイスもとても興味深いものでした」
「アエネイス、か。俺は後半部分の韻律がけっこうお気に入りなんだけど」
「なるほど。私はトロイア陥落後に地中海を放浪する部分が……」
二人は本について話しだした。
イーヴは書籍全般に対して造詣が深く、ラテン語だけではなく古代ローマ語なども読むことができる。