千の夜をあなたと【完】
陽が中天に差し掛かり、街路樹が道に長い影を落としている。
レティは秋空の下を港に向かって歩いていた。
オーラフは確か昼頃に出航すると言っていたような気がする。
まだ時間はあるはずだ。
レティの手には、昨日オーラフからもらったライナスの髪がある。
レティは自分の服の裾を切った布でそれを巾着状にくるんだ。
――――まるでお守りのように。
ライナスはもういない。
けれどこうしていると、ライナスの温かさに包まれている気がする……。
レティは宿屋や商店、市場が立ち並ぶ繁華街を抜けて港の入口へと来た。
港は相変わらず船や人でごった返している。
レティはその中にオーラフの船を見つけ、顔を上げた。
オーラフの部下たちが何やら荷物を船へと積んでいる。
レティもそちらの方へと向かおうとした、その時。
「……どこへ行く?」
聞き覚えのある、低いテノールの声。
その声は昔の記憶のものより幾分低く、昏く張りつめた怒りが満ちている。
レティは息を飲み、振り返った。
そこにいたのは……。