千の夜をあなたと【完】
「イーヴ……」
イーヴはいつもの黒衣に黒い脚衣を身に着けている。
陽の光を織り上げたような金の髪も、物憂げな青灰色の瞳も相変わらず美しい。
しかしその瞳は黒い怒りと憎しみに染まっている。
レティはその目に背筋が凍るような気がした。
「あいつらと一緒に行くつもりだったのか?」
「……イーヴ……」
「残念だったな。――――お前は一生、あの船に乗ることはない。例えウェールズが海に沈んでも、お前があの船に乗ることだけはありえない」
イーヴは言い、レティの腕を掴んで引き寄せた。
そのまま腰を掴んで肩へと抱き上げる。
その腕は昔に比べてはるかに強く、抵抗する隙もない。
イーヴはレティを軽々と背負うと、後ろに待機していた馬車に無理やり押し込んだ。
「ま、待って……っ!」
「――――出せ」
レティは慌てて出ようとしたが、イーヴの声とともに馬車が走り始める。
レティは馬車の中で、なすすべもなく身を強張らせていた。