千の夜をあなたと【完】
また、キングス・カレッジで軍事、財政、法学、語学についても学んだため、それらの知識も豊富らしい。
――――まさに天才という感じだ。
ちなみに剣技はほどほど、らしい。
これで剣技も天才的だとしたら本当に末恐ろしいので、レティなどはそれを聞いた時、よかったなどと思ってしまったのだが。
「ところでイーヴ様。『諸島の王』について、何かお聞きになっていますか?」
エスターは椅子に座ったまま指を組み、アンバーの瞳をイーヴに向ける。
イーヴも上衣の裾を払い、レティの隣の椅子に腰かけた。
イーヴの作法はブラックストン侯爵家で幼少のころから叩きこまれたらしく、とても優雅で上品だ。
本当に、なぜ性格だけが致命的に最悪なのか。
これで性格がまともだったらまさに王子様なのに……。
などと思っているレティの横で、イーヴはその形の良い唇を開く。
「『諸島の王』か。北のアイリッシュ海でマン島を中心に島々をまとめてる奴だろ? この頃、西のコルウィンの港のあたりに出没してるらしいね?」
「よく御存じで。さすが、ブラックストンの情報は早いですね」
「エインズワースのお前がそれを言うか?」
イーヴは呆れたように言う。
エスターの出身、エインズワース家はイングランド北部の地方領主で、祖父の代から治安判事などの要職についていた。