千の夜をあなたと【完】


体の痛み以上に、イーヴが自分に向ける感情が、……痛い。


なぜイーヴがここまで怒っているのかがわからない。

イーヴにはもう侯爵家出身の妻がいる。

それに比べ、イーヴが言うように自分は身を落としてしまった。

――――二人の道は分かれた。

イーヴもそれはわかっているはずだ。

なのになぜ、イーヴは自分にこんなことをするのか。


わからない……。


レティの脳裏に万年雪を思わせる蒼い瞳が浮かぶ。

いつも優しかったライナス。

もう触れることはできない、あの優しい温かさ……。


想い出の中の優しさに縋るように、レティは目尻から涙を零しながら呟いた。


「……やだ、助けて、ライ……」


しかし、その口はすぐにイーヴの手によって塞がれた。

イーヴは冷酷な瞳で嗤い、レティを見下ろす。

瞳に満ちる、苛烈な怒りと憎しみ。

そして……かすかによぎる、切なさ。

その瞳にレティは息を飲んだ。


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