千の夜をあなたと【完】



エインズワース家は商業の盛んなロンカスタの街を拠点としており、昔から独自の情報網を持っている。

しかしエインズワース家自体は爵位を持ってはおらず、現在はエスターの兄のサティアスが領主の座につき、ロンカスタ一帯を治めている。

ちなみにエスターは二男だったため、コレッジを出た後、20歳で高等法学院であるグレイス・インに入学した。

そして5年前のスコットランド戦役で功績を残し、ノースウェルズ王家より男爵位を賜った。


「『諸島の王』ですが、今はオーラフという者が王位についているようです。どうやらウェールズとの距離を縮めようとしているようですね」

「でも確か、奴らはケルト教会だろ? こっちとは相容れないんじゃないのか?」

「そこはうまく丸めつつ、商業貿易などの部分で双方利を取りたいという感じのようです」


エスターの言葉に、イーヴは唇の端でうっすらと笑った。

その冴え冴えとした青灰の瞳に、脇で見ていたレティはなぜか背筋がぞっとするのを感じた。


「……なんというか、中途半端で日和った感じの奴らだな。ウェールズを侵略するくらいの気骨があれば面白いのに」


そのあまりの言い草に、エスターもレティも言葉を詰まらせた。

……ウェールズの名家出身のアンタがそれを言うか?

と内心で呟いたレティの前で、エスターは苦笑し足を組んだ。



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