千の夜をあなたと【完】
どんどん、心が引き寄せられていく……。
イーヴにはもう妻子がいるとわかっているのに。
叶わないと、わかっているのに……。
イーヴは手早く服を身に着け、部屋を出て行く。
その背を見送った後、レティはゆっくりとベッドから腰を起こした。
――――腰が、痛い。
腰をさすりながら、レティはベッドの周りを見回した。
やがて目的のものを発見し、取り上げる。
ライナスの髪が入った、小さな布袋。
「ライナス……」
ライナスはもういない……。
レティは自分の心が二つに引き裂かれたような気がした。
ライナスが持って行ってしまった自分の心と、イーヴに強く惹かれていく自分の心。
もう、どうすればいいのかわからない……。
レティは両手で顔を覆い、肩を震わせて嗚咽した……。