千の夜をあなたと【完】
リュシアンは膝の上で指を組み、じっとレティを見つめながら言う。
レティはリュシアンの言葉を胸の中で何度も反芻した。
――――それは、つまり。
「お前には辛いかもしれないが、お前はもうまともな結婚は望めないだろう。誰かの妾になるか、年老いた貴族の後妻になるか、もしくは一生独身を通すか、だ」
「……」
「お前があいつを好きなら、あいつの妾になるのもいいだろう。だがそれはそれで茨の道だ。イーヴと本妻との仲を壊すことになる」
リュシアンはため息交じりに言う。
レティは圧し掛かる現実に心が押しつぶされそうな気がした。
……そう、イーヴは既婚者だ。
そして自分には『賊に囲われた姫君』というレッテルが張られている。
二人の立場の違いはレティにもわかっていた。
だから二人の道は分かれたのだと……そう、自らに言い聞かせた。
けれど昨日、イーヴは強引に二人の道を戻そうとした。
―――― 一年半前の、あの時に。