千の夜をあなたと【完】
「イーヴの妻はブライス侯爵家の娘だ。ティンバートとは格が違う」
「……っ」
「ブライスが本気になれば、お前ひとりを消すことなど造作もないだろう。オレは正直、お前にそんな危険を冒してほしくない」
「……」
「それにそうなれば、ティンバートにも何かしら悪影響が出るかもしれない。最悪の場合、だけどな……」
リュシアンの言葉にレティは唇を噛みしめた。
確かに自分が想いを貫こうとすれば、皆が不幸になる。
黙り込んだレティを一瞥し、リュシアンは口を開いた。
「だがお前があいつを好きなら、オレは止めない。あいつがお前をどうするつもりなのかはわからないが、悪いようにはしないだろう」
リュシアンは真剣な眼差しで言う。
レティは兄の真摯な気遣いを感じ、ぐっと手を拳に握りしめた。
どうすればいいのか……。
考え込んだレティの前で、リュシアンはひとつ息をついた。
気を取り直すかのように首を軽く振り、レティを見る。