千の夜をあなたと【完】
12.宿命
<side.エスター>
秋風が庭の木々を揺らし、窓越しに吹き込んでくる。
エスターはティンバートの執務室でエリオットの報告に眉を上げた。
その手には税金やら財務やらの資料の束がある。
エスターがティンズベリーの施政を始めて一年半。
今度の春で丸二年になる。
「……なんだと? 逃げた?」
エスターの声に、エリオットはその銀髪を下げ、唇を噛みしめて言った。
「はい。リンクスの宿屋の主人に聞いても、どこに行ったのかはわからない、と……。申し訳ございません、エスター様」
エリオットは深々と頭を下げる。
エスターはそれを見つめながら、内心で舌打ちをした。
――――リュシアンが、逃げた。
となると、リュシアンは恐らく記憶を取り戻したのだろう。
記憶を取り戻したリュシアンが何をしようとするか……。
それは何となく予想がつく。