千の夜をあなたと【完】
「実際に見てみないことには何とも言えないな。氷眼ってことは青い目ってことだろ?」
「まあ、そうですね」
「青い目の奴がその辺の往来で狂ったように剣を振り回したら、それで『氷眼の狂剣士』の出来上がりだ。違うか?」
どうやらイーヴは『氷眼の狂剣士』の噂は信じていないらしい。
イーヴはわりと現実主義というか、この目で見たものしか信じようとしない。
しかし……。
『氷眼の狂剣士』と聞くと、なぜかレティは背筋がぞっとするのを感じる。
なぜなのかはわからないが……。
「ディーンの『緋の魔剣士』並みに眉唾な気がするけどな?」
「……さすがイーヴ様、現実的でいらっしゃいますね」
「褒めてるのか、それ?」
イーヴは胡散臭げにエスターを見る。
『緋の魔剣士』というのはイーヴの出身・グロスターの近くにあるディーンの森に住んでいるという噂の剣士のことだ。
この噂はもう10年ほど前から巷に蔓延しているが、『緋の魔剣士』が男なのか女なのか、はたまた実在しているのかもはっきりしない。
「どうせなら、氷眼の狂剣士と緋の魔剣士を引っぱり出してきて戦わせたらどうだ? そうすれば一件落着だろ?」
「……何がどう落着するの、それ」