千の夜をあなたと【完】
「ロレーナ……」
流れるように美しい金の髪に、鮮やかな翠の瞳。
エスターは彼女に初めて会った時のことを思い出した。
――――あれは、20年ほど前。
エスターは兄のサティアスとともに、エインズワースが開催した舞踏会に参加していた。
エスターより5歳年上の兄はエインズワースを継ぐことが決定しており、弟のエスターはカレッジに入ることが決まっていた。
地位と遺産の相続は長男に限定されており、次男以降は親の財産を相続することはできない。
そのため世の中の次男以下の男たちは、法学院などに入り独自の地位や財産を得ようと努力していた。
エスターもそんな男たちの中の一人で、今後の人生をどうするか模索していた。
そんな時、彼女が二人の前に姿を現した。
流れるような金の髪に、翠の瞳。
男爵の娘だというその女性は、ロレーナと名乗った。
エスターは彼女の美貌に一目で心を奪われた。
しかし心を奪われたのは兄のサティアスも同じだった。
次男でまだ12歳だったエスターに比べ、兄のサティアスは長男でちょうど結婚相手を探しているところだった。
二人は何度か会ううちに次第に距離を縮め、一か月が経つ頃には恋人同士となり、三か月が経つ頃には婚約していた。
エスターはそれを胸が引き裂かれるような思いで見つめていた。