千の夜をあなたと【完】
もし自分が長男であれば……。
エインズワースを相続できる立場であれば、ロレーナはサティアスではなく自分を選んだかもしれない……。
エスターの心の中で、兄を恨む気持ちと妬む気持ちが膨れ上がっていった。
次男という、生まれ持った宿命。
――――自分ではどうにもならない、その宿命。
はじめての恋でさえ、その宿命に押しつぶされてしまう……。
苦い失恋の経験はエスターの人生を大きく転換させた。
エスターはカレッジを出た後、法学院への道を選ぶことにした。
次男以下がそれなりの地位に就くためには、法学者になることが一番の近道だったからだ。
しかしエスターがカレッジに在学していた頃、ロレーナは父の命でティンバート家のリカードのもとへと嫁ぐことが決まった。
ロレーナを一目見て気に入ったリカードがロレーナの父に打診し、サティアスとの婚約を破棄させたのだ。
そしてロレーナの父も、地方領主ではあるが爵位を持たないエインズワースより、男爵ではあるが爵位を持つティンバート家の方がいいだろうと判断したらしい。
それを知った瞬間、エスターの中でリカードは敵となった。
ロレーナの心を奪ったサティアスと、ロレーナの一生を奪ったリカードと……。
エスターの心は二人への憎しみで黒く塗り潰された。