千の夜をあなたと【完】
<side.イーヴ>
草叢の陰に黄色い何かが動いている。
イーヴは目を凝らし、すっと背中の弓矢を取った。
弓を引き絞り、狙いを定める。
――――ひゅんという風を切る音の後。
ギャン、と獲物の声が森の中に響いた。
「狐か……」
イーヴは獲物の近くまで寄り、馬から下りた。
剣で止めを刺した後、狐の体から矢を引き抜き、馬の後ろにくくりつける。
イーヴは一通りの作業が終わったところでひとつ息をついた。
――――何をしていても、レティの顔が頭から離れない。
昔からの願いが叶った今、イーヴの心はレティで占められている。
あの夜からイーヴは毎晩レティを抱いていた。
抱いても抱いても、足りない。
それは一度レティを失ったという苦い過去のせいかもしれない。
もう絶対にレティを離したくない。
レティを誰にも渡したくない。
その想いはこれまでにないほど強くなり、イーヴの心の中ではひとつの結論が出ていた。
――――離婚するしかない。