千の夜をあなたと【完】




イーヴは馬の手綱をぐっと握りしめた。

レティがライナスをまだ忘れていないことは分かっている。

それを思うと心が掻き毟られるように痛むが、相手は死んだ人間だ。

死んだ人間は心の中でずっと生き続ける。

――――そう、イーヴがずっとレティを想いつづけていたように。

それはイーヴがいくら言っても、レティの心から消えることはないだろう。


そう、わかってはいても……。


もしあの事件が起こる前に、もっとはっきりとレティに自分の気持ちを伝えていたら、レティがあの男に心惹かれることはなかったのかもしれない。

つい、そんなことを考えてしまう。

イーヴはひとつ息をつき、空を見上げた。


あの頃の自分は、自分の気持ちは言葉で言わなくてもいつかは伝わると思っていた。

レティもいつかは気付いてくれるだろう、と……。

言葉にしなければ伝わらないことがあるなど、あの頃の自分は思いもしなかった。


どうしたら愛が伝わるのか、どうしたら愛されるのか……。


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