千の夜をあなたと【完】



「……お前、何でこんなところにいるわけ?」

「……」


明らかに不機嫌そうな声。

湖のほとりにいなかったから怒っているのだろうか?

レティは恐る恐るイーヴを見上げた。


「妖精でもいた? それとも、素手で狼を捕まえようとでも思った?」

「……」

「お前が怖いもの知らずだってのは知ってるけど。無謀と馬鹿は違うよ?」


久しぶりの毒舌に、やはりイーヴはイーヴだと思いながらレティは上目づかいでイーヴを見た。

迷ったのは事実なので何も言えない。

イーヴは馬に乗ったまま、目を細めてうっすらと笑った。


「いや、お前はその両方だからタチが悪いのか?」

「……」

「淑女としての資質以前の問題だね。人としての問題だよ。そう思わない、お前?」


イーヴはどこか楽しげな声で言う。

レティははーっと息をついた。

イーヴが本当に自分を好きなのか疑いたくなる。

――――などと言ったら夜に酷い目に遭わされそうなので、とても言えないが。


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