千の夜をあなたと【完】
<side.???>
地面に広がりゆく、どす黒い鮮血。
それは目の前に斃れている男の胸からじわりと流れ出て行く。
男の色白で恰幅の良い体は、今は屠殺された豚のようにだらんと地面に横たわっている。
「まずは一人、か……」
男は斃れている男の胸から短剣を引き抜いた。
その目には怖れも迷いも、後悔もない。
その瞳に憎しみを滾らせ、男は斃れている男を見下ろした。
――――命の罪は、命で贖わなければならない。
男の脳裏に10年前の記憶が蘇る。
……忘れもしない、あの夜。
男は目を閉じ、嘆息した。
あの夜もどこか湿った、生暖かい風が吹いていた……。
――――あの夜。
あの日のことはまだ、鮮明に記憶の中に残っている。
男は胸の奥から突き上げる憎しみとともに、あの日のことを思い出した。