千の夜をあなたと【完】
アマンダはしぶしぶと言った様子で引き下がり、執務室を辞した。
アマンダはちょうどレティとセレナを足して割ったような性格で、そこそこ活発だが女性らしい淑やかな一面も持っている。
アマンダが部屋を出た後、トマスはリュシアンに向き直った。
「さて、まず状況説明からいこうか。だいたいの話はケネスから聞いているが、詳しいところを聞きたい」
「了解しました。では……」
リュシアンは落ち着いた口調でこれまでのことについて話し始めた。
―――― 一通りの説明が終わった後。
トマスは腕を組み、うーむと頭を捻った。
「……となると、このままいくとエスターが伯爵位を継ぐことになるのか?」
「もちろん伯爵位の継承にはノースウェルズ王家の承認が必要です。なので婚儀の後に、承認を受けるものと思います」
「しかしブラックストンの承認が出ている以上、王家の承認も通るだろうな。その前に、まずはリュシアンが生きていると名乗りを挙げなければならない」
「しかしエスターは、恐らく偽物と主張し排除しようとするでしょう」
リュシアンはどことなく昏い声で言う。
トマスはリュシアンを見ながら口を開いた。
「確かに。……となると、王家の承認の前に何としてでもティンズベリーに戻り、エスターを引きずり出さなければならない。あまり時間はないな……」