千の夜をあなたと【完】
『ライナス。お前、ポールおじさんのところに行ってワインを貰ってきなさい』
ポールは同じ村に住んでいる少年の叔父だ。
葡萄を栽培しており、ワインを作り売ることで生計を立てている。
父はチーズを少し大きめに切り、それを布に包んだ。
いつも、ポールには金を払う代わりに自家製のチーズを提供している。
少年――ライナスは父からチーズを受け取り、家を出た。
ライナスの家からポールの家までは徒歩で20分ほどだ。
ポールの家に着くと、ポールは驚いたようにライナスを迎え入れた。
『おや、ライナス。こんな時間に来るとは珍しいねぇ』
ポールは禿げかかった頭をカリカリと掻きながら、ライナスからチーズを受け取った。
指先でチーズの先を少しもぎ取り、味見する。
『これはいい出来だ。……ちょいとお待ち』
ポールは踵を返し、奥のワイン蔵へと姿を消した。
しばらくして、戻ってきたポールの手にはいつもより大きなワインの瓶があった。
『ちょっとお前さんには大きいかもしれないねぇ。大丈夫? 持って帰れるかい?』
『大丈夫だよ! このくらいっ』
ライナスは渡されたワインの瓶を腕に抱え込んだ。
……ワインはずっしりと重い。
けれど今日はお客様がいるのでなんとしてでも持って帰らなければならない。
ライナスはポールに礼を言い、ポールの家を出た。