千の夜をあなたと【完】
――――ポールの家を出てから15分。
ライナスは重い瓶を必死に抱え、家への道を歩いていた。
ライナスの両脇から夜の森が彼を飲み込もうと闇の手を伸ばしている。
ライナスはそれから逃げるように早足で夜道を歩いていった。
……しかし、家の灯りが見えたところで。
ライナスは首を傾げ、足を止めた。
「……?」
なぜか玄関のドアが開け放しになっている。
夜は絶対にドアを開けるなというのが父の口癖なのだが……
家の中から零れ出る明りをめざして、ライナスは足早に駆け寄った。
しかし、その戸口に立った時。
家の中から漂う血の匂いに、ライナスは思わず足を止めた。
ライナスの家は牧畜を生業としているため、ライナスも幼いころから家畜の血の匂いには慣れている。
しかし……この匂いは豚や羊の血の匂いではない。
もっと生臭い……背筋がぞっとするような匂いだ。
ライナスは背筋を強張らせながら家の中へと入った。
……瞬間。
目の前に広がる光景にライナスは息を飲んだ。
ライナスの腕からワインの瓶が滑り落ち、ガシャンと足元で大きな音を立てる。