千の夜をあなたと【完】
――――それは、凄惨としか言いようのない光景だった。
血にまみれ、床に突っ伏している父。
そして、テーブルの上で仰向けに目を見開いたまま事切れている母。
そのスカートは腰のあたりまで捲れ上がり、白い足がだらんと力なく垂れている。
その胸元もはだけ、膨らみの間に短剣が突き立っている。
そして妹が寝ていた籠にも、短剣が突き立っていた。
籠の下から、鮮血がぽたぽたと流れ落ちている。
「……」
ライナスは頭が真っ白になり、足から力が抜けるのを感じた。
くたっと崩れるように床に座り込む。
一体、何が起こったのか……。
ふと見ると、壁に掛かっていた剣がなくなっている。
そして……あの二人の兵士の姿もない。
茫洋とするライナスの瞳に、母の胸に突き立っている短剣の柄が映る。
……その柄に刻まれた、青い狼の紋章。
あの二人の兵士の皮鎧にも刻まれていた、紋章……。
その青き紋章は幼いライナスの心に、刻印のように刻み込まれた。
――――憎しみと復讐の象徴として。
その紋章がティンズベリーを治めているティンバート家のものであると知ったのは、それから3年後のことだった。
……そして、その瞬間から。
ライナスは昏く過酷な道へと、足を踏み入れたのだった……。