千の夜をあなたと【完】
その日の午後。
レティは痛む腰をさすりながら、屋敷の庭を散歩していた。
――――昨日のイーヴは本当に容赦なかった。
レティもそれなりに体力に自信はある方なのだが……。
イーヴは今日、朝から兵の訓練を行っている。
やはりイーヴとではそもそもの体力が違うらしい。
昔はさほど差があるとは思わなかったのだが、今は明らかに違う。
レティはチュニックの上から羽織った上着の前をそっと寄せた。
上着は美しい青色で、手触りのいいビロードでできている。
今朝、イーヴに借りたものだ。
『朝は寒いだろ。これ着てなよ』
と言い、イーヴは部屋に戻ろうとしたレティにこの上着を無理やり着せ掛けた。
上着は男物だが、レティが着るとちょうどコートのようになり、とても温かい。
ウェルシュ伯爵家の庭はそれなりに広い。
レティはゆっくりと薔薇の間を歩いていった。
東屋に差し掛かったところで、人の気配を感じ足を止める。
東屋の向こうから聞こえてくる会話に、レティは思わず耳をそばだてた。