千の夜をあなたと【完】
「……本当に、格好いいわよね! あんな方が現実にいるなんて~」
「まさにアポロンかヘルメスって感じよね~」
どうやらイーヴのことらしい。
しかし、アポロンって……。
あんな皮肉げな笑みを浮かべるアポロンがいたら見てみたい、などと思ったレティだったが。
続いた言葉に、背筋を強張らせた。
「でも、あの方の奥方様。……この間、亡くなったみたいよ?」
「ブライス家の姫君だったわよね、確か。病死って言ってたけど、ホントのところはどうなのかしらね~」
メイド達はレティが東屋の後ろにいることに気付いた様子もなく、続ける。
レティは息を飲んだ。
――――奥方が、亡くなった?
イーヴの妻は確か妊娠中だったはずだ。
その妻が……亡くなったというのだろうか?
「……」
衝撃がレティの胸を襲う。
レティはぐっと胸元を握りしめ、静かに踵を返した。