千の夜をあなたと【完】
<side.エスター>
その日の朝。
エスターは隣で眠るセレナにそっと口づけを落とし、長い黒髪を後ろで手早くまとめた。
セレナを起こさないよう注意しながら、静かにベッドを降りる。
エスターは枕元のサイドテーブルの引き出しを開け、中から小さな小瓶を取り出した。
瓶の蓋を取り、手近にあったハンカチにそれを数滴振りかける。
「……」
エスターはそのハンカチをそっとセレナの口元に当てた。
セレナはその感触に瞼をひくっと動かしたが、やがて再びすーっと寝息を立て始めた。
これでしばらく、セレナが起きることはないだろう。
エスターは身支度し、寝室を出た。
侍女を呼び、寝室に入れる。
「セレナをティンズベリーの外れの別荘に移してくれ」
「畏まりました、エスター様」
侍女は一礼し、セレナの支度を始める。
エスターはセレナの顔をしばし眺めた後、執務室へと向かった。