千の夜をあなたと【完】
――――イーヴ達がウェルシュを出発して一週間。
レティは庭の東屋で物思いに耽っていた。
あの時のメイド達の話を思い出し、ため息をつく。
イーヴの妻が亡くなったなんて……。
レティは俯き、唇を噛みしめた。
そもそもレティはイーヴから妻子についての話を聞いたことがない。
いくら愛し、愛されても……。
自分たちは普通の結婚は出来ない。
それはレティもよく分かっている。
ましてや侯爵家の息子であるイーヴは、それをよく知っているはずだ。
でも……。
イーヴが妻や子の話を一切しないのは、なぜなのだろう。
レティが分不相応なことを望むとでも思っているのだろうか……。
「……イーヴ……」
二年前はイーヴの婚約者は自分だった。
イーヴの正妻になる予定だった。
あの時はそれを嬉しいとも何とも思ってなかったのに、今はあの頃の自分を羨ましいとすら感じる。