千の夜をあなたと【完】
――――自分だけを、愛してほしい。
妾でもいい、愛人でもいい……。
分不相応なことは望まないから……自分だけを愛してほしい。
イーヴが自分に向ける気持ちに偽りはない。
けれどイーヴは侯爵家の息子として正嫡出子を残さなければならない。
……そしてそれを残すのは、レティではない。
例え妻が亡くなっても、イーヴのもとにはまた新しい縁談が来るだろう。
そして新しい妻を娶って、子を作る。
それが、侯爵家の息子の宿命だ。
それはわかっている。
なのに……。
「……っ、うぅ……っ」
――――耐えられない。
嫉妬に、悲しみに、胸が引き裂かれそうになる。
レティは涙に濡れた目でぼんやりと庭を見た。
春の日差しの下、レティの好きなスノーメアリの花が春風に揺れていた……。